フッサールと「ナイフ研ぎ」のエピソード 引用

さて、このエピソードが日本で有名になるきっかけとなったのは、おそらく、講談社の『人類の知的遺産』シリーズの一冊として1981年に出版された田島節夫『フッサール』のなかで紹介されたことによってでしょう。手元にある講談社学術文庫版(1996年)から該当箇所を引用します。

幼い頃からのフッサールの人となりを示すつぎのような逸話がある。ある日、彼はナイフを土産にもらったことがあるが、切れ味があまりよくなかったので、一生懸命にこれを研ぎにかかった。ところがナイフを鋭くすることばかりに気を取られていた少年フッサールは、鋼の部分がだんだん小さくなり、ついには無くなってしまったことに気がつかなかった、というのである。この話は、フランスで現象学研究の先達として知られたエマニュエル・レヴィナスが、晩年の本人の口から聴いたものであるが、フッサールはこの幼時の思い出に象徴的意味を託していたようで、その話をするときは沈痛な調子であった、という*3