天才コンプレックス Ⅱ

母はあのとき、「あなたもあなたの双子も同じ日に産んだのよ」と言った。

 

ぼくは双子がいることを知らなかった。双子はきっとぼくと似ているんだろう、そう思ったが、アメリカで暮らしていることがぼくには何ひとつとして伝わらなかった。

 

母は、「あなたの双子と明日逢えるかもしれないわ」と言った。

 

ぼくは、「どうして明日逢えるの?」と訊いた。

 

母は、「アメリカから帰省してくるらしいの」

 

ぼくは、双子と逢えるチャンスが明日あるということを考えずにはいられなかった。

 

ぼくは、双子と逢って色々話したいことがあるのか、ひとり考えることにした。

 

母は、明日逢えるといいね、と言うと仕事へ行った。

 

双子と逢えるその日がやって来た。ぼくは双子に何て話そうか、それも考えていた。

 

母は、「あなたの大事な双子が来るから、茶の間で待ってて」と言った。

 

ぼくは、双子の気配を感じた。心臓が、ドキドキする。胸の鼓動がドックンドックン止まらない。

 

糸が切れそうな感じがした。双子の声がした。「すみませーん」と聞こえた。

 

母が玄関に迎えに行った。母は、「どうぞ~」と言った。

 

さっそくぼくのところに彼が歩み寄って来た。

 

彼は、「初めまして」と言った。ぼくも緊張しながら「初めまして」と言った。

 

彼は、「産まれ違いだね。ここで逢えるなんて、まだ幸運だよ」と言った。

 

ぼくは、「君もぼくと同じ天才なのかい?」と質問した。

 

彼は、「天才だよ。ギフテッド扱いされたこともあるし」と言った。

 

ぼくは、「やっぱり天才なんだ、それが気になってたんだ」

 

彼は、「君も天才なんだね。それは認めないとね」

 

ぼくは、「誰に料理を作ってもらったんだい?」と質問した、

 

彼は、「知り合いの女将(おかみ)さんから食事は戴いたよ」

 

ぼくは、「ぼくのお母さんも女将さんなんだけど、料理も作るよ」

 

彼は、「そう、それは良かったね」と優しく応えた。ぼくは嬉しかったのを今でも覚えている。